行動宣言とゲーム進行 セリフとか判定とか

GMが状況を説明します。
「君たちは○○の村にある小さな宿にいる。」
ここからゲームがスタート。よくあることですね。
だが、ここで雑談に入って、ゲームがなかなか進まないこともあります。
原因はGMの説明不足にもあるのですが、行動宣言の的確さがないことにもあります。
 
TRPGはストーリー娯楽の一つとして、キャラクターの立場・性格等を考慮して行動宣言するものですが、その進行手順について解説したルールがほとんどないということが不思議だと思います。これが説明されないならば、TRPGはいつまでたっても「理解」されないのではないでしょうか?
 
今回は、行動宣言について書きます。
TRPGのルールブックには、たいてい次のような書き方でゲームの進行例が説明されていますね。
 
GMゲームマスター):キミたちはゴブリンがいるという洞窟の入り口に着いた。
戦士:じゃあ、誰か様子をさぐってくれ。俺は周囲に警戒するぞ。
盗賊:足跡はないか?
GM:たくさんの足跡があって、どれもこれもゴブリンらしい。
魔法使い:ここで罠を張るほどゴブリンは頭がよくないでしょう。明かりをつけて入ってみましょう。
戦士:そうだな。皆で入ろう。
GM:では隊列を決めて・・・
 
こんな感じですが、見慣れたリプレイ形式の記述ですね。この記述からどれだけの人が、実際のプレイを読み取ることができるでしょうか。
最初のGMの説明も、なぜそこで止める必要があるのでしょうか。洞窟の入り口付近の描写は少々省いて、「洞窟に入った」まで言ってしまってもよいと思います。ここで足跡判別のためのダイス判定が必要なら、それは厳しいゲームになりそうですね。TRPGでは、キャラクター作成時に、予想されるシナリオでの活躍の仕方を考慮しながら能力を決めていくものです。
最近のコンピュータRPGでは違うのですが、今回は割愛します。
シーフの足跡判定で失敗したらゲームが不利になるとしたらそれは難易度が高いシナリオではないですか?
 
戦士が「周囲を警戒する」と言ったにも関わらず、GMが無反応というのも気になります。本当はスクリーンの裏でダイスを振っていたり、メモをしていたりするかもしれませんが、実プレイにおいてはプレイヤーに「行動の意味」が伝わりません。
結局、「隊列を決めて」というところになり、戦士の行動は無意味だったわけです。
つまり、そもそもこんなところで行動を求めるのではなく、「洞窟に入った」でよかったのですね。それを察知した魔法使いのプレイヤーが気を利かせたというのが救いです。もしそれがなければ、「煙りでいぶす」とか「他の入り口を探す」とか、無駄に時間をかけてしまうでしょう。
 
「煙りでいぶす」とか「他の入り口を探す」という行動ができないのを「自由度が低い」と言うのは間違いです。『殺人事件が起きた。犯人を探してくれ』という依頼を受けたのに、街で露天商を始めたり、情報収集目的でないナンパを始めたり、無闇にスリや万引きを行ったりするのは、非常識でありゲームプレイとはいえないのでは?そういうことです。
RPGとは、スタートからゴールまで、自由なルートで進めるゲームではなく、ある程度の縛りを持ってプレイするという「少し難易度の高いゲーム」なのです。ゴールまでの手段を制限したり、途中の通過ポイントを義務付けたりすることで、競技性をもたらしているのです。
 
さて、ここまでにすでにいくつかの「TRPGのゲーム進行」のことが明らかになりましたが、たったあれだけのリプレイ的記述では、TRPGのゲームの進め方、手順について説明しきれていないことがわかりますね。
トランプの遊びについて、ポーカーのやり方、ブラックジャックのやり方、そういったものには手順が説明されています。TRPGでも、「行為判定」や「戦闘」については、トランプのような手順が説明されていますね。しかし、ゲーム全体における手順が全く見当たりません。そこが、「一度プレイしてみないとわからない」というところなのでしょう。唯一、ゲーム全体における手順を説明しているのが「Aの魔法陣」です。
 
では、TRPGの進行手順とはどういうものでしょうか?
ルールブックでは行為判定に関する項目で、以下のような説明が多いでしょう。
 
1.まずGMが状況を説明します
 状況説明とは、ゲームの開始状態を示すことです。PCがどこにいるのか。周りはどうなっているのか。PCは何をもっているのか。PCが知っていることは何か。
2.プレイヤーが行動宣言をします。
 状況に対して行動や反応を示すことです。
3.判定
 ダイスを振る判定を行うものか、GMが判断して決めます。判定が必要なら、プレイヤーにダイスを振るように言います。
4.GMが結果を示します
 プレイヤーの行動宣言に対して、状況がどう変わったかを示します。ダイス判定があったなら、その結果を考慮して状況の変化を提示します。
この後、1に戻ります。
 
ゲーム全体における手順ではないですが、セッション開始から終わりまでも、この1から4の繰り返しと見ることができます。

詰め将棋に例えることができますね。
1.詰め将棋の開始時の駒の位置・手駒を説明するのと同じです。不利な状況から始まったり、絶望的なときもあるでしょう。
2.詰め将棋の第1手を打つことと同じです。
3.詰め将棋での後手の動きを示すところです。
 
問題点として、1でゴールを示していないことでしょうか。何かの依頼を受けたなら、その依頼を達成することがゴールといえるでしょう。ここでもし、宿屋にいるところから初めてしまうと、先のゴブリンの洞窟の例と同じく、どこに向かうやら無駄な時間を費やしてしまうことでしょうね。詰め将棋では、ゴールは「相手の王を詰める」と提示されています。
GMは、状況説明において、スタートとゴールを示すべきなのかもしれません。「Aの魔法陣」では、スタートとゴールを説明することがゲームルールそのものに入っています。
 
2のプレイヤーの行動宣言にも問題があります。例えば、酒場で情報を収集するときも、「酒を注文して、マスターに聞いてみる」というのと「よう、いい酒はあるかい?ああ、ありがとう。なかなかうまいぜ。ところでこれを知らないか?」というやり方がありますね。前者を非演技タイプ、後者を演技タイプと呼んでみます。
非演技タイプなら、GMもその反応を同様に非演技で返すことですませることができるでしょう。判定を行わせるタイミングも、行動宣言に対して行わせればいいですね。
演技タイプでは、うまくいかないときがあります。例では非演技の行動宣言と同じところまで完結していますが、そこまで言わずに「よう、いい酒をくれ」で終わり、GMの反応を待つという場合です。これだとGMもセリフで返してみたり、『マスターは酒を出した。』でまた行動宣言待ちになることでしょう。こうしてセリフによるやりとりを行うと、非演技タイプの数倍の時間が掛かってしまいます。また、会話が苦手な人がやると、セリフに詰まり、さらにセッションの停滞を招きかねません。
どちらが優れているとか劣っているとかを言っているわけではありません。ただ、時間や進行の横道を気にするなら、GMは行動宣言についての手法にも注文をつけてもよいのでは、と思うところです。
 
行動宣言自体には特有の面白さというのもあります。
RPGコラム 『うがつもの』: 『らき☆すたTRPG』は作成至難 〜TRPGの根源にある駆け引き・やり取りのゲーム〜

「駆け引き・やり取り」のゲームで面白いゲームを引き出すには、いかにして結果を出すのではなく、いかにして魅力的なパターンを演出するかにあるかと云えます。妙手にこそ命ありです。

ある事件が起きた状況において、事件に関わらずに軍隊や警察機構にまかせるという選択肢も存在するかもしれません。しかし、それでは面白くありません。同様にGMの設定した情況を「ありえない」の一言で打消すのもつまらないことです。そこでやはり、GMは行動宣言に対して、行動の制限や要求を高くすることが必要かもしれませんね。
 
 
最後はダイス判定についてです。
いかに行動宣言について妙手を出したところで、「能力値やスキル」「ダイス目」によって吸収されてしまい、プレイヤーの発想が反映されにくいというのが現状のTRPGです。
例えば、鍵の掛かった扉に対して、鍵開けをしなければ進めないという状況です。シーフが開錠の判定を行い、成功ならかぎは開きます。
 
シーフAは、鍵屋の息子なので、鍵の構造には詳しい。鍵を根本から壊してしまうことで扉を開ける。
シーフBは大工の仕事をしていた。扉の構造に詳しいので、どの程度の破壊を行えば鍵が役に立たなくなるかを知っている。取っ手の一部を破壊することで扉を開ける。
 
この2例でどちらも同じ「開錠判定」なってしまいます。もちろん、このような詳細を宣言しないで「鍵あけをする」というだけでも同じ判定で難易度はかわりません。
これが今のルールの現状です。そこに「宣言の仕方によって判定にボーナスを与える」というルールをつけるのはどうでしょう。「Aの魔法陣」に近づくわけですね。

長くなったのでまとめると
TRPGのほとんどは、ゲーム全体の進行を説明する部分があやふやになっている
 ゲーム全体についての進行・手順を明確な説明が必要
・行動宣言の仕方がルールに明確になっていない
 ルールに書く。GMがその宣言の仕方を指定できるようにする
・状況説明と行動の結果がGMによってまちまち
 状況説明の仕方をルールに書く。行動宣言に対する結果の提示についても。
・行動宣言の妙手があっても判定に反映されない
 ルールを追加する。行動宣言の仕方の再考が必要か。
 
以上、新たなTRPGが誕生するに期待するところです。


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