『大地が落ちてくる』 パイオニア2転覆の日

イオニア8がある方角から多量のノイズを受信した。その方角はパイオニア2およびパイオニア1が向かった航路。惑星ラグオル方面からの受信だ。


調査によりごくわずかな解読可能なものが発見された。
「もうまにあわない。最後に別れを言うべきか、警告を発するべきか、よく考えたがもう時間もない。
さらば、宇宙よ。今、大地が目の前に落ちてきている。」
簡潔にまとめられたこの短文のみが、圧縮されたファイルとして認識可能なものとなっていた。この他にもメッセージとして読み取れる部分が少ないものが多量に受信されている。ある分析によれば、簡潔にまとめたこれ以外の発信者は、パニックに陥っていたか、送信のためのメッセージ完了を行っていないのではないかという。


他のメッセージの解析は進んでいない。どれもデータの破壊が酷く、手がかりが少ないというのもある。しかし、内容がある一定のものであることが判り始めて、それで解析が進まないという。それは、「死への恐怖」であり、「別れの挨拶」であり、「警告」であった。すべて、命の叫びともとれるそれらを受け止めながら解析するのは、心がもたないのだ。
もうひとつ、さきほどの簡潔な短文に追伸が発見された。「今体験しているのはなんだろう。かりそめの”母なる大地”に包まれていくのか。それとも、この巨大な精神体に抱かれている感覚は。」


イオニア8上層部により、これらの受信したものは非公表とすると決定された。
イオニア8からパイオニア2およびラグオルまでの距離は、いかなる方法でもメッセージのやり取りが不可能な距離である。これらのノイズは偶然、言語に変換されたものか、或いはパイオニア8内からの放送等の影響と考えることもできる。よって、これらのノイズの解析に意味を見出さないとの判断。
「オカルトじみたことなので解析するな」という決定だ。だが、こうも考えられる。
『パイオニア1・2の二の舞になりたくない』
メッセージの送信者の「警告」は受け止められたのだろう。ならばこれで、謎のノイズ解析の目的は達成したと納得しよう。


――このエントリーはフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません